メタボリックシンドロームの資料


第28回日本肥満学会「緊急メッセージ」全文

【第28回日本肥満学会“緊急メッセージ”全文】
メタボリックシンドロームとは?
ーメタボリックシンドロームの正しい理解ー


1、背景
 近年、栄養過剰や運動不足など食生活やライフスタイルが大きく変化したことにより、肥満人口が急激に増加しており、様々な疾病を引き起こしている。なかでも、耐糖能異常、脂質代謝異常、高血圧などが、たとえその程度が軽くても一個人に集積することが、心臓病や脳梗塞などの心血管疾患の発症基盤となることが明らかとなっており、この病態をメタボリックシンドロームという。わが国では2004年4月から、肥満学会を含む8学会(内科学会、糖尿病学会、動脈硬化学会、高血圧学会、循環器学会、腎臓病学会、血栓止血学会)の合同で1年間の論議を重ねて2005年4月に発表したものである。

2、日本の診断基準
 メタボリックシンドロームの概念は、グローバルの腹部肥満(欧米には内臓脂肪のデータに乏しいために腹囲だけを指標とした腹部肥満でしか表現できていない)と対応する内臓脂肪蓄積を必須としてそれに加えて脂質異常、高血糖、高血圧が複数重なっている状態と定義しており原則的にはグローバルの定義と共通である。これはメタボリックシンドロームであると診断して、それ以外を病気ではないとするものではなく、言い換えれば、複数のリスクを持つ病態のなかで内臓脂肪の蓄積が原因として大きく関与しており、内臓脂肪を減らすことによって複数のリスクを効率よく改善させるとともに、心血管病のリスクも効率よく軽減できる病態を診断する目的のものである。
 2005年4月に設定された、わが国におけるメタボリックシンドローム診断基準の各項目の基準値は、それぞれ関連する学会から提案され合同委員会で検討の上設定されたものである。肥満学会としては、腹腔内内臓脂肪蓄積の基準値を、提案させていただいたのであるが、これは2000年に本学会から肥満研究に発表された「新しい肥満の判定と肥満症の診断基準」で提案された内臓脂肪型肥満診断の基準値に基づいたものである。内臓脂肪面積の基準を男女とも100平方センチとするのは、平成11年、12年に厚生科学研究費(健康科学総合研究事業)糖尿病発症高危険群におけるインスリン抵抗性とその生活習慣基盤に関する多施設共同追跡調査―介入対象としての内臓脂肪の意義の確立―で報告された値に基づいて決められたものである。
 内臓脂肪の測定は全ての施設では行えないため、それを代用するためグローバルの腹部肥満の基準であるウエスト周囲径が用いられ、男性85センチ、女性90センチが基準値となっている。これらは、内臓脂肪量評価の基準である臍レベル腹部CT断面像での内臓脂肪面積100平方センチに対応する値である。
 内臓脂肪蓄積に加えて、高トリグリセリド血症(血清トリグリセリド値150mg/dl以上)かつ/または、低HDLコレステロール血症(血清HDL-C値40mg/dl未満){動脈硬化学会からの提案}、高血圧(収縮期130mmHg以上かつ/または、拡張期85mmHg以上){高血圧学会からの提案}、空腹時高血糖(110mg/dl以上){糖尿病学会からの提案}の3項目のうち2項目以上あればメタボリックシンドロームと診断するというのはご存じの通りである。

3、ウエスト周囲径の世界基準との相違点
 ウエスト周囲径の基準の設定方法は各国で異なっている。米国の男性102センチ、女性88センチという基準値は、BMI30に相当する腹囲として切れのよい40インチ、35インチと設定したのをセンチメートルに換算したものである。
 欧州人では、男性94センチ、女性80センチを基準値としている。これはBMI25以上あるいはウエスト/ヒップ比が男性0.95以上、女性0.8以上に相当する腹部周囲径としており、いずれも男女別の体格指数から設定したものである。いずれにしてもわが国以外では内臓脂肪を評価して基準値を決めた国はない。
 IDFの提案した男性90センチ、女性80センチの基準は、米国、ヨーロッパ、アジアのそれぞれを統一する基準としたもので、アジアそれぞれの国の事情を考慮したものではない。

4、日本の診断基準の評価
 日本の診断基準によって心血管病予防に問題が起こっているという意見は全くない。むしろ国民栄養調査で診断したメタボリックシンドロームの年代別の頻度の男女差は、日本スタディなどで発表された日本人の頻度の男女差とほぼ類似するプロフィールであり、現時点での妥当性が示されている。

5、今後の方向性
 飽食と運動不足の社会環境を背景に増え続ける生活習慣病、特にそれらが集積したマルチプルリスクファクター症候群がコレステロールとは独立して心血管病の強いリスクとなり、その中でも、それらリスクの上流に内臓脂肪の蓄積が存在することは世界的なコンセンサスとなっている。メタボリックシンドロームの概念はその様な病態を診断するために作られたもので、それにより、これまでマルチプルリスクの個々に薬物治療を重ねる医療になりがちだったのに対して、食事や運動など生活習慣の改善によって内臓脂肪を減量させ、マルチプルリスクを一網打尽に改善させるとともに心血管病のリスクを効率よく軽減させることができるのである。肥満学会としても、現行の肥満症、内臓脂肪型肥満の診断基準は、新しいエビデンスが出るまでは、変える予定はなく、来年から始まる特定健診・保健指導の場など広い範囲で、現行の診断基準をもとに、内臓脂肪減量を目的とした生活習慣の改善の効果が大きい対象を的確に選び出し、適切な指導が心血管病発症を如何に減らせるかを実証しながら、基準値などの再検討の必要性などについて時間をかけて論議する必要があると考えている。

2007年10月19日 日本肥満学会

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