【第4部】メタボリックシンドローム海外事情
  (3) 「“子供の食育”国が支援」
2006.10.01

 オーストラリアの肥満に対する取り組みは、大都市を抱える東部のビクトリア州(州都メルボルン)とニュー・サウス・ウェールズ州(同シドニー)などを中心に進められている。

 肥満対策を象徴する政令が5月に出された。ビクトリア州政府は、公立の小中高校内で砂糖類を多く含んだジュース、炭酸飲料などの販売を禁止したのだ。

 肥満の子供が急増し、小児の20%以上を占める状態では、もはや具体的な形でのショック療法が必要になってくる。なにしろ10代の子供の1割が清涼飲料水などを毎日1リットル以上も飲んでいるという。

 「甘い飲料の販売禁止は、子供の食事をもっと健康的にしようという試みで、新鮮な果実や野菜など健康的な食べ物を販売するようにした。これで子供のときから何を食べたらよいか、教えられます」

 政府の肥満対策プログラムのリーダーであるイアン・ケイターソン・シドニー大教授は食育の効果を強調する。

 子供の肥満は、糖尿病やメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)などこれまで小児になかった症状が見つかったことから関心が集まった。日本では肥満率10%程度だが、昭和40年代の3倍近くになっている。欧米先進国や中国、インドなどアジアでも深刻な課題になりつつある。

 「現在は、他の国と同じように何が有効か、模索しているところです」。例えば放課後も校庭を開放して、運動ができるようにした。保護者が自動車で送迎しているが、学校の2、3キロ手前で停車させ、子供を歩かせるようにした。

 小児肥満が急増した原因は何か。

 「遺伝的に太りやすい人種であるほか、母親が妊娠中に低カロリーの食物しか食べなかったことが影響して、成長後に肥満や高血圧になるケースがある。生活環境面では、豊かになり、砂糖や脂肪分が多い加工食品も含め、必要以上に買えるようになった。技術面では車やコンピューターゲームが発達し、運動量が減りました」

 こうしたオーストラリアの肥満対策は、糖尿病の対策と結びついている。すでに糖尿病研究については国の支援態勢ができているからだ。連邦政府は自由党、国民党の保守連合が政権を取り、各州の政府は労働党が優勢と対立しているが、国民的課題の糖尿病の予防治療については超党派で合意した。

 糖尿病研究の第一人者であるポール・ジメット・国際糖尿病研究所長は、「キャンペーンにより肥満や2型糖尿病についての意識は高まってきた。しかし、短期的に成果が出るものではないとはいえ、結果として糖尿病は増えています。新たな政策を次々と打ち出していくことが大切です」と指摘する。

 ジメット所長は、小児肥満の対策のほか、歩道を整備し自転車専用の道路をつくり、安全に運動できる公共スペースをつくるなど国レベルでしかできない環境づくりを訴えた。

 「研究面でも国のサポートがあり、肥満と糖尿病の関係を調べる疫学調査を行い、国民の認識を高めるのに役立ちました。また、2型糖尿病に関係する遺伝子を発見し、それをもとに薬剤を開発しました。日本の企業とともに、カロリーを制限した食品の臨床試験も行っています」

 肥満対策は軌道に乗りつつあるが、基本的には個人の自覚によるところが大きい。スリムな体形を維持しているジメット所長は「週に2、3回のジョギングと延べ120キロの自転車走行。健康的な食事は赤ワインと日本食。好物は刺し身と緑茶です」という。日本通らしい自分なりの健康プログラムを立てている。



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