特定健診、積極的活用を(1/2)
    <あらゆるリスク高める中性脂肪>
2008.01.25

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準の一つである中性脂肪は、動脈硬化や2型糖尿病のリスクを高めることが知られている。中性脂肪は、直接悪さをするのではなく、陰に隠れてさまざまな病態の基となる。今年4月から始まる「特定健康診査(以下、特定健診)・保健指導」では対象者・選定項目になり、強力な生活習慣の改善を目指す「積極的支援」の重要な要素ともなろう。今回の全国的な保健指導は、ハイリスクの人たちはむろんのこと、病気になる前に、病気の予備群の段階で救い上げようというのが大きな狙いだ。(大串英明)

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 □順天堂大学医学部・代田浩之教授に聞く

 ■あらゆるリスク高める中性脂肪

なぜ、今メタボリックシンドロームなのか

 そのバックグラウンドは、日本人の食生活や身体活動が大きく変わったことです。日本人のコレステロールも上昇してきたといわれますが、実際には1990年から2000年までの調査では頭打ちでした。また、コレステロールの認知度はかなり高まっており、いい薬も開発されて普及しています。これに対して、肥満、糖尿病といった病態には知識や予防という観点からも十分な対策が取られているとはいえなかったように思います。

 糖尿病は発展途上国でも増え始めており、2025年までには全世界で50%以上も増加すると予測されるなど、世界共通の課題となっています。その原因は過食と運動不足で起こる肥満だと考えられます。これは、メタボリックシンドロームとも非常に共通した背景であり、だからこそ日本でも欧米各国でもやっきになって防ごうとしているわけです。

 肥満をベースにした動脈硬化症というのは、以前から、そのメカニズムに議論があったところです。しかし、肥満に加えて軽症のリスクでも、それが重なると想像以上にリスクが増大しているというのがメタボリックシンドロームの新たな概念です。そのリスクの一典型として高中性脂肪血症や低HDL(善玉コレステロール)血症というものがあるわけです。

中性脂肪がやはり、重要な要素だと

 中性脂肪に関しては食事の影響を相当受けていることもあり、きちんとしたデータがありませんでしたが、最近、いくつもの有力な証拠が出てきています。例えば、筑波大学のグループによる1万人以上の住民を15年追跡調査した研究では、中性脂肪が84mg/dlあたりから徐々に心臓突然死・心筋梗塞(こうそく)・狭心症のリスクが高くなり、167以上の人では84未満の人に比べると2・86倍のリスクになります。一方、北海道の企業労働者(男性)約7000人に対する10年間の追跡調査では、中性脂肪が162以上だと急性心筋梗塞と狭心症のリスクが4・87倍となることが判明しています。この調査で危険因子別に発症リスクを調べたところ、喫煙が5・59倍と断トツでしたが、次に中性脂肪で3・07倍、そのあとの空腹時血糖値・収縮期血圧・BMI(体格指数)などはおよそ1倍と、中性脂肪のリスクが際立っていました。さらに、欧米の29の調査研究を統合した分析(メタ解析)でも中性脂肪が冠動脈疾患のリスクであるという結論の論文が出されています。

 これらのデータから、実は中性脂肪が150未満でも決してリスクはゼロではなく、これまで以上に気をつけなければいけない危険因子だということがわかるわけです。われわれの研究でも同じ傾向が現れており、臨床現場のいわゆる2次予防の領域でも中性脂肪が重要と感じています。これまで以上に重要な点は、今回の「特定健診・保健指導」では内臓脂肪の蓄積があって、中性脂肪が150mg/dl以上ならば保健指導の対象に入りますが、150未満、あるいはその前後という低い値でも動脈硬化のリスクはゼロではないということです。

なぜ中性脂肪が危険なのか

 動脈硬化の病巣に中性脂肪がたまるわけではないので、中性脂肪それ自体が悪いというよりも、中性脂肪が高くなると血液中のコレステロールの状態が悪くなって、さまざまな病態を引き起こす隠れた存在だからなのです。善玉のHDLとは反比例の関係にあり、高中性脂肪血症と同時に低HDLコレステロール血症も起こってきます。一方、中性脂肪は肝臓から出てくる「リポタンパク(VLDL)」に乗って血液中を流れていますが、中性脂肪が多く含まれていると、その代謝の途中で悪性の「レムナント」ができて高レムナント血症は動脈硬化へとつながります。また悪玉のLDLよりもさらに超悪玉の「スモール・デンス・LDL」ができます。スモール・デンス・LDLは変性しやすく小粒で血管壁にもぐり込みやすいという性質があるため、さらに動脈硬化を促進することになります。

そういう状態を調べるには

 レムナントは、今、保険診療でも測れるようになっていますし、スモール・デンス・LDLも保険適用にはなっていませんが測ることは可能です。また、量は測れませんが、レムナントとスモール・デンス・LDLが存在するかどうかを調べるだけの検査も保険診療でできます。しかし、いずれにしても調べるには医療費がかかるので、今回の特定健診の枠には入っていません。もちろん中性脂肪が高ければ、そういう状態であることが想像できるので、それにプラスしてほかのリスクが重なればメタボリックシンドロームとしてハイリスクとなります。

生活習慣に関係する2型糖尿病患者に対する調査でも中性脂肪が大きなリスクとなっている

 日本で1996年から続けられている2型糖尿病患者1400人を対象にした研究「JDCS」でも中性脂肪が心筋梗塞などの冠動脈疾患発症や糖尿病腎症のリスクとなることが明らかになってきました。

予防法としては

 まず最初に生活習慣の改善を行うことに勝るものはありません。米国の研究でも、生活習慣を改善することによって糖尿病の発症頻度が減ったという報告があります。そういう意味でも、今回の保健指導の方向性は正しいと思いますし、個人、個人に対する保健師さんなどの活動も大変重要だと思います。

 しかし、生活習慣だけでは、どうにも改善できない人もいます。そういうときには、その人のリスクの高さを考えながら薬剤を使って治療することになり、その有用性も示されてきました。例えば、中性脂肪を下げるフィブラート系薬剤を使った海外の臨床試験「FIELD」では、心筋梗塞や脳卒中がなかった2型糖尿病患者での心筋梗塞などの心臓病の発生が減少したことが報告されています。同時に、腎症・網膜症といった糖尿病の合併症も減少していました。つまり、フィブラート系薬剤は中性脂肪の代謝分解を活発にし、肝臓で善玉のHDLが作られるのを助ける働きがあり、前述のリポタンパクなどの代謝の流れを改善して糖尿病患者の動脈硬化を防げることがわかってきたのです。

 ただし、生活習慣を見直さずに薬剤だけに頼ろうというのは虫のよい話で、生活習慣改善の努力をしながら薬剤を使うことで治療の効果も高まります。

(2008/01/25)


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