脳卒中 早期対策で予防(2/2)
2008.03.16

■特定健診・保健指導 動脈硬化防止の出発点に

--- 脳卒中予防の方策として薬物療法も

 生活習慣の改善だけでは、限度のある人もいます。場合によっては、重症化する前に薬物療法も考えねばなりません。特に最近は、前述の、血管に悪影響を及ぼすアンジオテンシンIIの「AT1」受容体をブロックする降圧剤(ARB)も登場し、脳血管障害などの予防にも有効だとして注目されています。ARBに関しては、特に脳卒中予防の観点から行った海外の臨床試験「SCOPE」「ACCESS」などのエビデンス(科学的証拠)が発表されています。最近では、AT1をブロックすることで、血圧を下げる作用とは別に、臓器保護作用もあることがわかってきました。

 臓器保護というのは、血管の内皮機能の働きを守るということで、血管の内皮細胞の働きを活発にすることで、血管の収縮・拡張といった血管の反応性を保つのです。それと最近注目されている心房細動の新規発症をARBは抑制することもわかってきたのです。

--- 糖尿病に関しては

 さきほど述べたように、糖尿病ではインスリン抵抗性の改善が動脈硬化や脳梗塞を減らすうえで重要と考えられます。日本でも使用されているインスリン抵抗性改善薬は、海外の試験(PROactive試験)で心筋梗塞や脳卒中の再発を抑える作用が報告されています。また、糖尿病の人の6、7割が高血圧を伴っていることから、糖尿病患者さんの高血圧管理も重要です。糖尿病の患者さんから、脳卒中や心筋梗塞を減らすための高血圧管理薬としてもARBやACE阻害薬がガイドラインで勧められています。これらの薬剤はインスリン抵抗性の改善効果も報告されています。また、ARBやACE阻害薬は、糖尿病を発症していない人に対して、糖尿病の発症を抑制することも報告されています。

--- 脳卒中というと、以前はとても危ない病気で、予後も悪かったですね

 昔は、治療法もなく、ともかく寝かせておくという処置の仕方しかなかった。現在は、脳卒中らしい症状が出たら、一刻も早く救急車を呼んで病院に運ぶことです。脳梗塞を発症して3時間以内なら「tPA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)」という血栓を溶かす薬の治療が受けられます。脳梗塞によって血管が詰まった状態では、血小板の周りに「フィブリン」というのり状のタンパクが集まって凝固が起こり始めています。tPAはそのフィブリンを溶かす作用を持っているのです。これが現在、一番効果のある治療法で、臨床現場では話題になっています。日本の脳卒中の治療も新しい時代に入ったというわけです。くも膜下出血も脳出血も、脳梗塞と同様、すぐに病院で治療を受けることが重要ですが、今はCT・MRI・頸(けい)動脈超音波検査などの画像診断が格段に進歩していて、頭の血管のどの部位がどの程度詰まっているか瞬時にわかるので、テーラーメード的な、病態に応じた治療法も可能になってきました。それによって患者さんの予後もかなり変わってきていますね。

--- 相当、「寝たきり」の患者さんもいますね

 今、地球上で1年間に5900万人の人が病気で亡くなっていますが、そのうちのおよそ10%にあたる590万人が脳卒中です。大事なことは、それと同じくらいの人が寝たきりになっているということです。脳卒中は、必ずしも死ぬ病気ではありませんが、寝たきりを作っていることにもなります。欧米を含め寝たきりの第1位は、日本はじめどこの国でもすべて脳卒中なのですね。

 重度の介護となると、急性期医療よりはるかに医療費がかかり、労働力や家族の負担を考えると、脳卒中というのは、膨大な医療費そのものになります。だから、要介護を防ぐためにもまず発症を予防し、急性期の適切な治療が必要不可欠なのです。医療者側も「予防医療」の時代だと、はっきり認識すべきなのです。脳卒中を予防するためには、動脈硬化を起こす高血圧も糖尿病も脂質代謝異常も、症状がない段階から危険因子として見極める必要がありますし、今回のメタボリックシンドロームの診断基準をベースにした特定健診・保健指導を応用する姿勢が大事だと思うわけです。

--- 「動脈硬化」予防が究極の目標だと

 現在、日本の死因の第1位はがんですが、2番目の心臓病、3番目の脳卒中を合わせるとがんより多くなることは間違いありません。最近は両者とも同じ動脈硬化を基盤とする「血管病」であって、血管内の粥腫(アテローム)から血栓が飛ぶなどの共通した病態から「アテローム血栓症」とも総称されています。だから、人類は、これからはアテローム血栓症との戦い、すなわち動脈硬化をいかに防ぐかが重要になってきます。脳卒中は、死因では第3位ですが、現在わが国では約272万人の患者さんがいて、この先15年ぐらいまで増加し続けるであろうと予測されています。いわば「国民病」でもあるわけですが、今こそ予防のスタート地点に立ったという気がします。

                   ◇

【プロフィル】棚橋紀夫

 たなはし・のりお 慶應義塾大学医学部卒業。米テキサス州ベイラー医科大学に留学、慶應義塾大学神経内科講師・助教授などを経て平成17年、埼玉医科大学神経内科学教授および同大学国際医療センター脳卒中センター長。日本脳卒中学会幹事、日本脳循環代謝学会監事、日本神経学会評議員、日本微小循環学会理事など。

(2008/03/16)


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