健康は筋肉の維持から(2/2)
2008.03.23

■弊害多い運動なしのダイエット

--- 逆に「運動なしダイエット」も

 運動しなくても、しっかりとダイエットができれば体脂肪は減るわけです。それにあわせて、血清脂質や血糖値、血圧もよくなるはずです。でもそれで喜んでいてよいのでしょうか。今は、低カロリーながら、必要な栄養素はちゃんと入っているダイエット食品やサプリメントが盛んに出回って、体調を崩さずにダイエットできるような状況になっています。ダイエット食品は、スムーズに減量に成功できる一方で、筋肉が犠牲になってしまうことを忘れてはいけません。若いうちはまだいいかもしれませんが、年を取ると、さらにサルコペニアという追い打ちがかかるのです。

--- 肥満は増えてきている

 60年前からの厚生労働省の国民栄養調査では、確かに1950年から脂肪摂取量は増えていますが、実は1970年過ぎた辺りから横ばいの状態が続き、2000年以降は、ヘルシー志向で脂肪が減ってきている状況なのです。総カロリーも1970年をピークに減り気味。ところが、肥満度だけは、調査するたびに増え続けています。この20年間、男性は各世代BMI(体格指数)25以上が、ずっと右肩上がりになっています。口から入っていくカロリーが減っていくのに、肥満が増えるということは、日本人は食べ過ぎで肥満してきたのでなく、運動不足で太ってきたのだという理屈になるわけですね。だから、2005年までは、優劣をつけず運動・食事とも大事だといっていたのが、その年を境に「第1に運動、第2に食事…」というようになったわけなのです。食事量は減り気味なのに肥満が増える。これは結局運動時間が少なくなったというより、24時間の生活の中で、体を動かさなくて生活できるようなことになってしまったからなのですね。昔は公衆電話を探すだけでもひと汗かいたのに、今は携帯ひとつで事足りる生活で体を動かさずにいて、今の若い人たちが今後どういう長寿を迎えるのか、たいへん気になるところです。

--- きつい運動でなくてもいいと

 スポーツ競技のトレーニングでは、強い負荷、あるいは長時間の負荷をかけて練習しないと成績は上がらないでしょう。でも、健康維持のための運動では、有酸素運動でも筋トレでも、顔がゆがむまでにきついと感じるような負荷は不必要です。それを裏付けるエビデンス(科学的証拠)も多数あります。

 ところで、いったん運動を始めると、えらく頑張る人が多い。でも頑張らなくてはいけないのは、運動している最中でなく、運動する時間をつくること、運動を続けることです。自分は運動が続かないが何かいい方法はないかと、よく聞かれますが、私は「ない」と答えるのです。健康維持の運動というのは、さほど楽しいものでもない。「修行だと思って毎日やってください」というのです。本当に「修行」ぐらいに思っていないと、現実として続かないですよ。

--- 元気に長生きするためには

 私は運動科学者ですので、やはり筋肉の維持を強調したいと思います。とくに高齢者が筋力を保つことは元気さの泉といってもよいでしょう。もちろん骨や関節も大切で、とくに、関節を大きく動かせる能力、すなわち柔軟性はたいへん大事です。関節の動きが悪いと、必要なときに瞬時に関節が開かず危ないことになります。つまずいて、仮に足の筋力があってぱっと前に足を出しても、足の関節が開かないと体ごと倒れこむことになります。普段からストレッチングをしておくと、「関節可動域」というのですけれど、関節が動く範囲が広く維持できるのです。その可動域が大きければ、ケガもしにくくなるし、いろいろな運動もこなせて健康長寿の維持につながってゆくわけです。

 人間、生きている証しというか、張りのある生活というのは、自分が他人の役に立てるということが大きいと思います。そのためには、単に長生きをすることだけでなく、元気に長生きするということが大切でしょう。だれもが、車いすに乗っての生活ではなく、車いすの人を助けてあげるような、そういう生活を望むはずです。目先の検査値の改善や体重の減少を喜ぶのではなく、その先にある将来の姿を見据えてゆくことが大事だと思います。

                   ◇

【プロフィル】林達也

 はやし・たつや 京都大学医学部卒業。米国ハーバード大学・ジョスリン糖尿病センター研究員、京都大学医学研究科助手などを経て平成16年、同大学院人間・環境学研究科助教授(現准教授)。専門は、運動医科学・糖尿病学。

(2008/03/23)


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