肥満と糖尿病(1/2) ■内臓脂肪代謝変え食欲にブレーキ
2008.04.04

□東北大学大学院医学系研究科教授・岡芳知氏に聞く

 日本人は、欧米人と比べ、糖尿病になりやすい。少し太っただけでも、糖尿病になってしまう。それも近年は、過食を反映してメタボリックシンドローム型の、肥満をベースにした2型糖尿病が増え続けている。合併症の脳梗塞(こうそく)・心筋梗塞などを防ぐにも、一番の元凶たる「肥満」を改善するほかない。一方、どうにも抑え切れない「食欲」。内臓脂肪からはさまざまなホルモンが分泌され、動脈硬化の進展に影響を及ぼすが、内臓脂肪の代謝を変えてみると、自律神経を介して食欲にブレーキがかかることもわかってきた。脂肪組織や脳、肝臓など人体の各臓器間には、本来、「正しく食べて、正しい体重を保つ」代謝情報のネットワークができているらしい。東北大学大学院医学系研究科の岡芳知教授は「“食べ過ぎ”の科学が解明できれば、新たな糖尿病・肥満治療の糸口になる」と語る。

 ■臓器間に「正しく食べる」情報ネットワーク 

----日本人は、糖尿病になりやすいと

 欧米の方が来られてびっくりするのは、まず日本人が非常にスリムだということ。糖尿病の多さを聞いてさらに驚きます。何でスリムなのに糖尿病が多いのかと。糖尿病は、血糖値が高くなる病気で、体内のインスリンという血糖値を下げるホルモンが十分出せなくなって発症します。それが今、糖尿病の大半を占める「2型糖尿病」の病因です。例えば、肥満のうえに運動不足だと、インスリンは通常の2倍、3倍必要になりますが、日本人はなかなかインスリンを多く出すことができないのです。欧米人は、こういう頑張りにも耐え、インスリンを多く出すことも可能なので、相当太っても運動しなくても大丈夫な人がいるわけです。つまり日本人はインスリンを出す能力が少なくて、ちょっとした負担でも糖尿病になるケースが多いのです。これはアジア人全体の特徴といってもいいでしょうね。

----今回スタートした「特定健診・保健指導」について

 肥満をベースにした対策を講じようという今回の健診には、期待しています。今まで健診は、「あなたは問題がありますよ」と告げるだけにとどまっていたのに今回は、一歩踏み込んでその後をチェックし成果を求めています。いろいろ批判があっても、非常に意義のある健診システムと評価しています。

----しかし、年ごとに肥満が増えている

 男性は、確実に肥満者が増えています。少し太るだけでも糖尿病になりやすい民族ですから、大きな問題になってきているのです。20世紀後半から21世紀にかけて糖尿病が急激に増え出しました。開発途上国だったインドや韓国、中国など衣食足りたところは軒並み爆発的に糖尿病が増えています。

----内臓脂肪について

 現代の生活では、食べ過ぎ・運動不足でどうしてもエネルギー過剰になります。過剰なエネルギーは一番に内臓脂肪にたまり、たまり過ぎると、内臓脂肪からさまざまなサイトカイン(生理活性物質)やホルモンが分泌され、血圧・脂質・糖の状態もおかしくなり、さまざまな病態を生み出してきます。内臓脂肪はそうした病態の元凶だと考えられます。メタボリックシンドロームは、血圧・脂質・糖というリスクの重なりで、おのおのはちょっとした変化だけれども、複数併せ持つと動脈硬化が非常に起こりやすくなるという警告でもあるのですね。

----糖尿病のカギを握るインスリンについて

 糖尿病は、大きく分けて、インスリンの出方(分泌)が悪いか、インスリンの働きが悪いかの2通りの病態が考えられます。20、30年ぐらい前の、日本人の糖尿病というと、インスリンの出方が悪い人が多かったのです。ところが最近は、メタボリックシンドローム型といえるような、肥満があってインスリンの効きが悪い「インスリン抵抗性」の糖尿病が増えてきているのです。もちろんインスリンの出方にも問題があるのですが、それ以上にインスリンの効きが悪いのです。これは肥満や運動不足で内臓脂肪がたまることに起因してインスリン抵抗性が悪くなる、つまり、肥満を根底にした「欧米型」の糖尿病が増えてきたといえるわけです。

----欧米との論争もあったとか

 欧米の糖尿病は、従来太っている人が多いので、「インスリンの効きが悪いから糖尿病になるのだ」と、欧米の学者は唱えていたのです。日本では、「いやそんなことはない、インスリンの出が悪いからだ」と対立していたのですが、私たちもだんだん欧米人の言うことがわかってきたのです。というのは、私たちが診ている患者さんが、だんだんと肥満タイプの欧米型になってきたからなのです。一方、欧米でもインスリンの出方にも問題があり、肥満になっても十分にインスリンを出せれば糖尿病にならないことがわかってきて、両者歩み寄る格好になったわけです。肥満や運動不足でインスリンがたくさん必要となる場合には、それをうまくカバーできないと糖尿病になるということで、考え方が一致してきたわけです。

----インスリンの出方(分泌)にも限界がある

 インスリンの効きが悪くても十分に分泌力があれば病気にならずに済むはずですが、インスリンの出方には、頭打ちというか、一定の上限があるものだから糖尿病になってしまいます。

----いわゆる「2型糖尿病」が増えてきたのも理由がある

 インスリンを分泌する臓器、つまり膵臓(すいぞう)が壊れてしまう病気が「1型糖尿病」で、日本人では学童期に目立ちます。これに対し、インスリンの効きが悪くなっているのを、インスリン分泌力でカバーできない、いわゆる「2型糖尿病」の患者さんは、現在95%を占めるほど圧倒的に多くなっていますが、中でもこうした太ったタイプの欧米型の患者さんが増えてきたことを実感しています。日本人の糖尿病の“顔つき”が大きく変わってきたのです。糖尿病は、合併症が怖いわけですが、最近は、脳梗塞や心筋梗塞など太い血管に起こる「大血管症」が増え、こうした点でも、欧米型にだんだんと近づいてきたのです。

(2008/04/04)


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