子供の2型糖尿病とメタボ 現状と対策
2008.07.16

○「日本糖尿病学会年次学術集会」シンポジウム

 ■小児期の肥満 成人時に悪影響

 子供の時から、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)や肥満などが原因の2型糖尿病を発症し、成人になったときの生活習慣病とも深く関連することが明らかになってきた。小児の肥満は、欧米や中国など世界中で対策を進めている緊急課題。東京でこのほど「第51回日本糖尿病学会年次学術集会」が開かれ、シンポジウムで最先端の研究成果が取り上げられた。

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 ■浜松医科大学・大関武彦教授 日本の子供 0.5〜2.5%がメタボ

 肥満が原因の2型糖尿病やメタボリックシンドロームは血管の内側を厚く、硬くする動脈硬化を進行させる。そしてこの動脈硬化と深くかかわる心筋梗塞(こうそく)など心血管病や脳卒中など脳血管疾患が増え、日本人の主要な死亡原因に浮上している。動脈硬化をいかに予防するかが、国民の健康を増進するうえで重要な鍵といえる。

 こうした状況の中で、最近、世界中で小児のメタボが増加する傾向にある。高カロリーの食事や運動不足など環境の変化が原因とみられ、日本もその例外ではない。厚生労働省の小児期メタボに関する研究事業の研究班(主任研究者・大関武彦浜松医科大学教授)は、日本の小児の0.5〜2.5%がメタボ状態にあると推定する。

 深刻なのは、小児期のメタボが成人の病気につながっていることにある。研究班は、超音波による診断で、肥満の子供の血管はすでに硬くなり始めていることを確認している。さらに、他の研究で無症状であっても、小児から慢性的に動脈硬化が進行していることも明らかになっている。

 海外の追跡調査で、小児期の肥満は、成人後の過体重など、大人になってからの健康状態にも影響を与えているとの報告もある。生活習慣は子供のうちに身につくことからも、小児期からの予防対策は欠かせない。このため、厚労省の研究班は家庭や学校での早期予防に役立てるため小児メタボの診断基準を3年がかりで策定した。

 まず、腹囲の基準(中学生80センチ以上、小学生75センチ以上など)をオーバーしたうえで、高脂血・高血圧・高血糖などのうち2つのリスクがあると、メタボと診断されるというもの。小児は成長段階にあるだけに、データのばらつきがあり、基準値の策定は困難とされた。だが、研究班はメタボの発症が多く、統計がとりやすい11歳から15歳までのデータに絞って取り上げることで、データを標準化することができた。

 当初3年間の予定で立ち上がった研究班は、今年度、新たに3年間の継続が決まった。今後は診断基準づくりから一歩進み、小児メタボを防ぐための効果的な食事や運動方法などのガイドライン作りを目指す。

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 ■東京家政学院大学・門脇弘子教授 体質の早期把握が必要

 東京家政学院大学の門脇弘子教授は、小児の脂肪組織から分泌されるホルモンの増減とメタボのリスクの関連を調べた。このホルモンには数種類あり、善玉は「アディポネクチン」で血管を修復するなどして動脈硬化を防ぐ。しかし、肥満が進むと、アディポネクチンの分泌量が減り、逆に悪玉ホルモンが増えて動脈硬化を進行させ、炎症など病気の原因になる症状を起こす。

 門脇教授らが、小児のアディポネクチン総量をはかったところ、新生児が最も高く、15歳で急に低くなる傾向があった。特に男児の方が低下の傾向は高い。健常な子供は、2型糖尿病や肥満の子供の2倍以上も出ていた。アディポネクチンに関連する遺伝子について、遺伝子の違いを解析(SNP解析)したところ、変異のある人は、血中のアディポネクチンの分泌量が低いので動脈硬化を起こしやすく、インスリン抵抗性があるので2型糖尿病になるリスクも高いことがわかった。

 このため、小児期からすでに表れているメタボの体質や遺伝素因を知ることは、肥満、2型糖尿病の発症リスクを知ることになり、生活習慣病の予防に効果的であることがわかった。

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 ■肥満改善に効果「スポーツ教室」

 太りすぎの子供のためのスポーツ教室。「楽しい」をキーワードに水泳など運動・栄養・医学・心理の4本柱のサポートをしている。週1回3カ月のクラスで参加者20人中8割が、肥満度10%以上の改善に成功した。指導員の渡辺恒一さんは「リバウンドの可能性はあるが、一度身につけた正しい食事と運動の知識は、大人になっても役立つ」。小児の糖尿病やメタボの解消にも役立ちそうだ。

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 □シンポジウム報告

 シンポジウムでは、肥満の子供が、2型糖尿病やメタボリックシンドロームによる動脈硬化の原因を抱えていることが示された。胎内にいるときから、母子ともに生活習慣病に気を配ることが必要で、小児期から高血糖、高血圧などリスクを把握したうえでの予防が効果的だ。

 ■日本大学小児科 浦上達彦講師 2型糖尿病小児の80%は肥満

 世界規模で肥満などが原因の2型糖尿病が子供に増加している。日本大学小児科の浦上達彦講師は、東京都の学校検尿・糖尿病検診の結果から、小児2型糖尿病の発見頻度が、昭和55年以前は受診者10万人あたり年間1・74人だったが、その後、2倍近くに増えていることを指摘した。2型糖尿病の小児の80%は肥満児で、小児肥満の増加を反映しているのは明らかだ。さらに成人にみられるような2型糖尿病に高血圧などメタボのリスクもあるかどうか、都の検診で発見された156人の2型糖尿病の子供について、厚生労働省の小児メタボの基準を用いて調べた。その結果、全体の8割以上が肥満児で、脂質異常が48・7%を占め、肝機能障害は約半分が持っていた。高血圧は13%にみられた。

 高血糖以外に、中性脂肪や血圧など2項目以上で異常値を示したのは、肥満児(52.3%)が多く、男女別では男児(58.8%)が高かった。2型糖尿病の小児は治療に入っておらず、2型糖尿病の判明時にすでに高頻度でメタボリックシンドロームのリスクを持っていることがわかった。

 その要因としては、肥満や、細胞内に血液中の糖分を取り込ませる作用があるインスリンが効かない「インスリン抵抗性」という症状が関与している可能性が高い。このため、糖尿病と診断されれば、早期に、腎障害など糖尿病の合併症を抑制する対策をとる必要がある、と説明した。

 ■浜松医科大小児科 中川祐一准教授 母親の栄養状態が胎児に影響

 母親の胎内にいるときの環境が、成人期になって発症する病気の原因になっているという考え方が注目されている。

 浜松医科大小児科の中川祐一准教授によると、胎児はあらかじめ遺伝子に書き込まれた情報に基づいて成長するが、食事内容、喫煙など母親の生活習慣などの影響により、遺伝子の働きに後付け(エピジェネティクス)の変化が出て、環境に対応できる体質を形づくる。たとえば、メタボの場合、胎児は、胎内環境が低栄養状態など劣悪であれば、その環境に適応して生きていこうと準備を始める。少ない栄養で成長できる体質になっているので、出生後に栄養環境が良すぎると、結果的に栄養の供給が過多の状態で肥満になりやすい。

 メタボの状態が表れる原因には、3つの仮説があり、まず胎内の低栄養に対応して、血液中の糖が細胞内に取り込まれにくいインスリン抵抗性の状態になったまま、出生後も解除されないで高血糖になる。次いで、食欲を調節するホルモンのレプチンの作用が、低栄養の環境にシフトしたままになっているというもの。

 中川准教授らは、もうひとつの仮説を主張しており、グルココルチコイドというストレスに耐性がある副腎皮質ホルモンが関係するとみている。ラットを使った実験では、胎児がストレスを受けるとグルココルチコイドの分泌が増えるように胎盤などの機能が変化していることを明らかにした。出生後もこの変化は持続しており、このホルモンは血液中の糖を細胞内に取り込む耐糖能を障害する作用があることから、高血糖の原因になることが推測された。

(2008/07/16)


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