第5回アジア・オセアニア肥満学会議
2009.03.04

■インド、経済発展で肥満急増

 地球規模で過剰な肥満が広がる中で増加が著しいアジア地域の肥満や、それに伴う生活習慣病について研究成果を報告する「第5回アジア・オセアニア肥満学会議」が2月初旬、インドのムンバイで開かれた。日本、オーストラリアや欧米など各国の医学者らが参加し、肥満の予防や治療など対策について意見を交換。インドが急速な経済発展による生活習慣の変化から、肥満や糖尿病が増加するなど深刻な状況を抱えている実態が浮き彫りにされた。

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---対策着手も所得格差の壁

 肥満学会議は2年に1回のペースで開かれており、2007年の韓国・ソウルに次いでの開催。今回は、肥満などが原因の糖尿病患者数が世界一多いインドに舞台を移した。しかし、昨年11月にムンバイ同時テロが起きたため厳戒態勢の中で行われ、海外からの参加者は減少したものの、インドの肥満者対策など今後アジアで重要視される問題を中心に論議が展開された。

 アジアには、日本などの東アジア、インドなどの南アジアとそれぞれの地域に多くの民族が住んでおり、肥満の程度による病気の起こりやすさが異なる。しかし、一般的に血糖値を下げるインスリンの分泌量が少ないことから、肥満などが原因の糖尿病が起こりやすい、とされる。国際糖尿病連合(IDF)の2007年度の推計によると、糖尿病患者数はインドが世界一で約4100万人、2位が中国の約4000万人と経済発展が著しい国で多く、日本は6位になっている。とくに、インドは2025年に糖尿病患者数が倍増すると予測されるほど急速に進行しているので、それに歯止めをかけるためにも肥満対策は緊急の課題だ。

 今回の学会長を務めたラーメン・ゴエル・ボンベイホスピタル病院長の基調講演などによると、インド人の肥満は年齢、性別を問わず広がっている。標準体重より少し多めの過体重を含めた肥満は都市部に多く、成人の40?70%に上り、子供でも12?30%とのデータもある。糖尿病と診断された患者は7?20%の割合で、中には、インスリンを投与されている子供もいる。若者に心臓病が増え、睡眠時無呼吸症も7%いる、という。

 肥満や糖尿病がここまで増えたのは、経済の急速な発展により中間層の消費が活発になるとともに、生活習慣が変化してきたことが背景にある。

 食生活では、インド料理は、食用油などカロリーが高い食材を使うことが多かったが、さらに、高脂肪のファストフードを食べるようになった。さらに、街にレストランが増え、食事をしながら話す機会が多くなったことや、仕事の時間が増えて食事の時間が不規則で短時間になったことも指摘された。運動面では、車社会が進行していることや、高画質のテレビやコンピューターが普及したことから子供を中心に屋外で遊ばなくなったことが挙げられた。

 こうしたことから、ゴエル会長は「穏やかな肥満である過体重の段階であることを認識し、その時点からライフスタイルを改め、散策、サイクリング、スポーツジムなど運動する習慣をつけるなど自己管理が必要」と予防医学の必要性を強調した。

 インドでは、日本の特定健診・保健指導のような明確な肥満の診断基準は一般に普及していない。このため、BMI(体格指数、体重を身長の2乗で割った値)、内臓肥満を見る腹囲、体脂肪率をチェックするほか、平均的な血糖値を調べる「ヘモグロビンA1c」で診断の確実さを高めることが必要、という。具体的な肥満対策としては、喫煙の弊害をアピールし、国レベルでは、食品の成分表示が制度化され、肥満に対する警告が付記されはじめた段階だ。

 こうしたことから、ホテルなどにスポーツジムが併設され、低カロリーのダイエット食品も発売されている。航空会社、ホテルなどサービス業を中心に企業も社員の健康管理を重視し始めている、という。

 ゴエル会長は「自己コントロールによる生活習慣の改善から始めることが大切です。薬剤の投与や外科手術による治療は肥満の程度の診断を確実に行ったあと、その患者に本当に必要かどうかリスクを見極めたうえですべきです。医療関係者をはじめ、企業や学校、マスコミも参加しての正しい知識の普及も不可欠でしょう」と話した。ただ、11億7000万人と世界2位の人口を抱えるインドは、7億人ともいわれる貧困層を抱えている。着手したばかりの肥満対策は、富裕層、中間層を対象にしたもので、今後、高カロリーの食習慣の浸透により、低所得者の栄養摂取のアンバランスによる肥満の合併症も大きな課題となるだろう。

 国際肥満研究連合(IASO、本部ロンドン)のフィリップ・ジェームス教授は「インドの肥満対策については、食生活を根本から見直す必要がある。例えば、ほとんど肉類を使わないインド料理では動物性タンパク質が不足しているが、この状態は脳の食欲を抑制できず、炭水化物の過食による肥満につながる。ベジタリアン(菜食主義者)が多いが、野菜に含まれないビタミンB12の欠乏症が生じている」と実態をくわしく調べたうえでの啓発プログラムの必要性を指摘した。

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---注目集めた“先進国”日本、最新のメタボ研究の成果を報告

 「インドは経済発展とともに、外国からの企業も多く進出してきます。生活習慣は大きく変わっており、正しい方向に改善するためにも、海外の肥満研究者らの意見を聞くことは不可欠です」と学会事務局長のラジェッシュ・パレック・メディハイツホスピタル副院長は語る。

 今回の学会では肥満の状況など疫学や、インドで盛んな肥満の外科治療に関する研究発表が多かった。その中で、肥満学研究の先進国である日本の学者が肥満のメカニズムを生理学的観点から解明した研究は少なく、注目を集めた。主催団体のAOASO(アジア・オセアニア肥満学会)の理事長である松澤佑次・住友病院長は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)や内臓の周囲に蓄積する脂肪のメカニズムをテーマに招待講演。脂肪細胞の膜にある「アクアポリン」というグリセロールを通すタンパク質の役割について、松澤院長ら大阪大学グループが明らかにした知見を報告した。

 脂肪細胞は脂肪を脂肪酸と、水に溶け糖質のもとになるグリセロールに分解する。血糖が少なくなるとグリセロールはアクアポリンにより血液中に出され、門脈を通じて肝臓に送られ、糖分になり、飢餓に対応している。ところが内臓肥満になると、アクアポリンの調節が利かなくなり、グリセロールが放出されたままになり高血糖を招く、と内臓脂肪のもうひとつの重要な役割を説明した。

 また、日本肥満学会国際委員長の吉松博信・大分大学医学部教授は、メタボのシンポジウムの中で、毎日の食事によるエネルギーの摂取と消費のバランスを調節する機構が脳内の視床下部にあり、この食事のリズムを崩せば肥満につながることを報告した。

 今回の学会について松澤院長は「ムンバイ同時テロの影響があり、アジアの国からの発表が比較的少なかったのは残念でしたが、欧米などからの高レベルの発表もありました。インドの肥満対策については、富裕層や中間層が対象。貧困層は低栄養、やせ問題が深刻。所得格差は生活習慣病と密接に関連しており、米国では逆に低所得者層に高度な肥満が急増している実態をみても、国民全体を対象にした対策は困難でしょう。全国民の健康意識が高い日本だからこそ国家レベルの生活習慣病対策ができる、との認識を新たにしました」と話している。

(産経新聞 2009/03/04)


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