糖尿病克服、徳島県の挑戦 (1/2)
2009.04.05

プラス1000歩県民運動で“歩かん県”脱却へ

 糖尿病による死亡率が平成5年から連続14年、「全国ワースト1位」となり、昨年その不名誉な記録を返上したものの、いつ戻るともかぎらない。特に車社会の弊害で“歩かん県”ともいわれる徳島県。日常の運動不足や食事などの生活習慣改善はまだ万全とは言い難く、同県では、「健康とくしま運動」を旗印に行政・医療界・民間とも全県挙げて懸命に糖尿病対策に取り組んでいる。糖尿病患者数が依然増加している中、「プラス1000歩県民運動」や「阿波踊り体操」などユニークな試みが注目されている。

                   ◇

■糖尿病死亡率「全国ワースト1」返上

 「お題目であってはいけない。しっかり、中・長期の目標を立て、県民全体にいかにアクションを起こさせるかが一番大事。今やりつつあることが、10年後には確実に実ることを期待しているのです」と糖尿病の権威で今回、県民運動のリーダーを務める徳島大学名誉教授・川島病院名誉院長の島健二氏は強調する。 

 四国の東に位置する人口79万人の地方都市・徳島県。糖尿病克服運動が始まったのは、ひとえに、糖尿病死亡率が連続14年も不名誉な「全国ワースト1位」(平成5年時、粗死亡率=人口10万対、徳島13.9:全国平均8.3)の記録が続いていたためだった。何とか脱却できないものか。まず県は平成17年に県医師会と共同で「糖尿病緊急事態宣言」を行った。県知事や県医師会長らがコトの重大さを県民に訴え、県民一人ひとりが強く健康づくりの意識を持つよう、全県の関係組織・団体を組み込んだ県を挙げての健康づくり運動に乗り出したのだった。

 実は、医療を中心とした「糖尿病対策班」は、宣言の前年から、島氏を班長に立ち上がっており、当初から医師、栄養士・保健師・運動療法の専門家、歯科医らのほか、保健所など行政も加わって糖尿病対策の中心となって活動し始めていた。糖尿病の怖さを訴えるポスターを県内にくまなく張ったり、開業医らとも共通認識を持とうと「糖尿病の早期介入マニュアル」などを配って、医療者側の意識、技術向上にも努めた。その運動は、糖尿病の要因ともなるメタボリックシンドロームや腎症対策にもおよび、治療対策を共有する、いわゆる「地域連携パス」を作成するとともに、地域ごとに開業医やコメディカルらの講習に乗り出し、糖尿病初期安定期の治療の仕方や診療の標準化に営々と努めてきたのだった。

 「緊急事態」宣言後の徳島県の取り組みは別表のように半端ではない。平成18年には、県内各層の約50団体で構成する「健康とくしま県民会議」を作り、「健康とくしま運動」に全県挙げて取り組むことに。各地域で健康づくりに熱心な事業所を募って結成した「健康とくしま応援団」も年々、その数を増していった。「食と運動が健康づくりの両輪。食の面では、県内各地で食生活のセミナーを開いたり、運動面では、地域の総合型スポーツクラブを拠点にボランティアのリーダーらが運動教室などを開いて頑張っているのです」と県健康増進課主幹の丸山正弘氏。

 徳島名物の阿波踊りを取り入れた「阿波踊り体操」も作られている。徳島大学大学開放実践センターの協力を得て、今ではそのDVDが全国からも引き合いが来ているという。一方、食・栄養に関しても、郷土料理をアレンジした脂肪控えめ・食物繊維豊富な「ヘルシー阿波レシピ」を開発して普及に努めている。

 19年度には、特定健診・保健指導の開始を控え、「糖尿病アタック作戦」▽20年度には、「メタボリックシンドローム一掃作戦」、21年度には、「とくしままるごと健康づくり」と次々と名称を変更して体制の充実強化を図ってきた。県健康増進課の石本寛子課長によれば、アタック作戦は、糖尿病対策の地域支援として医療機関のネットワークの構築。専門医・かかりつけ医らの情報共有。行動変容できるような保健指導の実践?が3本柱。その年、糖尿病の先端的治療・研究調査をする「糖尿病対策センター」も徳島大学内に設けられた。さらに「健康とくしま憲章」を作り、自ら健康づくりに取り組むのに役立ててもらおうというのである。

 一番注目されるのは、島氏らのアイデアで県医師会がリーダーシップを取った「プラス1000歩県民運動」かもしれない。県民健康栄養調査(平成15年)では、1日の平均歩数が男性6,507歩(全国平均7,575歩)、女性5,931歩(同6,821歩)で、ともに全国平均を下回っていたことが分かった。その差およそ1,000歩。それからまず克服しようという作戦だ。プラス1,000歩以上歩いた日には〇印をつけるダイアリーを2万冊作って家庭に配り、成果を挙げた人は表彰する試みも。島氏は、「今より1,000歩多く歩くという簡単な試みですが、歩くことは糖尿病予防の第一歩。ダイアリーは歩数計では測れない運動も歩数換算できるようになっていて、これを活用した人の中には、体重も減り数値も良くなってきたという報告もあるのです」と話す。

■「阿波踊り体操」メタボ編など取り入れ

 「メタボ一掃作戦」では、特定健診・保健指導に合わせて保健師らの資質の向上を図るとともに、「職域タイアップ」という企業での健康づくりにも取り組んでいる。この成果のひとつとして21年4月からタクシーも全面禁煙に踏み切った。ウオーキング教室も盛んになり、「阿波踊り体操」は、筋トレの要素も加えた16分のメタボ予防・解消編の新バージョンが加わった。

 実は、平成19年の人口動態統計によると、徳島県は糖尿病死亡率ワースト1位をやっと抜け出て、全国第7位となった。ひと安心ということなのだろうが、丸山主幹は、「こうした生活習慣の改善運動が即結びついて効果が出たとは思えないところもあるのです。引き続き糖尿病対策には身を引き締めて取り組んでいきます」という。21年度の「とくしままるごと健康づくり」では、生活習慣の改善から医療まで、総合的な生活習慣病対策を展開していく。特定健診で異常が指摘されたようなハイリスクな人たちにもターゲットを絞り、県民まるごと健康づくりを仕上げようという作戦。

 石本課長はこう語る。「ワースト1位は脱出したけれども、全国平均の11.1に対し徳島は14.2と、まだ非常に死亡率が高いという状況に変わりはないのです。また、糖尿病の受療率(患者数)は依然1位で患者も多いわけですので、決して対策を怠るわけにはいかないのです」

                   ◇

≪車社会、食べ過ぎの弊害≫

 なぜ、徳島県で糖尿病死亡率・患者数が多いのか?。徳島の関係者、識者たちが挙げるのは、(1)食べ過ぎ(2)運動不足(3)肥満?の3つ。この実態は、県民健康栄養調査結果からも明らかにされていて、中でも運動不足。例えば1日当たりの歩数は全国平均を大きく下回り、日常的に県民の運動不足の状況が推測されるのだ。それは糖尿病患者や予備群の人にも顕著な傾向で、40歳以上の県人口(約47万人)の「4人に1人は糖尿病が疑われる」(県健康栄養調査から)最大要因といわれても仕方のない状況だろう。

 運動不足の理由として、石本課長は「交通機関、特に電車がなく車に頼る社会生活が大いに響いている」と解説する。徳島県は確かに駐車場も多く、四国のほかの県と比べて自転車通勤も少ない。

 ところが、島氏らの話によると、最近、女性を中心にウオーキング姿を見かけることが多くなったという。毎日、自宅近くの吉野川の土手を30分ジョギングしている島氏だが、こうも語っている。「私の診ている患者さんでも、歩くことに励んだら糖尿病も目に見えてよくなっています。いかに実行するかですね。それにしても、わが国は歩く環境も悪く、運動によい自転車道の整備も欧米と比べたらはなはだ遅れています。そういう環境整備もこれからの課題でしょう」

 第2に、食べ過ぎ。県民健康栄養調査では、1人1日当たりのエネルギー摂取量は全国平均と大差ないが、摂取量を2割以上上回る人の割合が高く、「3人に1人は食べ過ぎの可能性がある」(同調査)と指摘されている。一方、間食の頻度も「毎日1回以上間食する」の割合が男性約3割、女性は半数以上となり、間食が習慣化。栄養士らの話でも、徳島県民は甘いもの好きで、食べる量も多いという。

 3番目の肥満も、こうした要因が重なり、男女とも「県民の3割に肥満(BMI25以上)の傾向がうかがえる」(同調査)としている。全国平均より約10%上回る数字だ。小児肥満も、医師会に糖尿病対策班ができる前から問題となっていた。最近は減る傾向にあるが、県では来年度から高校生にも枠を広げて調査する方針。結局、小児肥満は家庭環境、母親の教育も重要だとし、栄養士らも「親子食育教室」を開いているということだった。



第一生命
オムロンヘルスケア

    メタボリックシンドローム撲滅委員会とは メタボリックシンドローム撲滅運動キャンペーンの活動 メタボリックシンドローム撲滅運動 協賛各社の取組み
小児肥満
委員長
   松澤 佑次(日本肥満学会理事長/(財)住友病院院長)
委 員
   門脇  孝(日本糖尿病学会理事長/東京大学大学院教授)
   島本 和明(日本高血圧学会理事長/札幌医科大学学長・理事長)
   北   徹(日本動脈硬化学会理事長/神戸市立医療センター中央市民病院院長)
   齋藤  康(日本肥満学会理事/日本動脈硬化学会理事/千葉大学学長)
   渡邊  昌生命科学振興会理事長)
   中尾 一和(日本内分泌学会前理事長/京都大学大学院医学研究科 内科学講座内分泌代謝内科教授)
   齋藤  勉(産経新聞社常務取締役 編集・論説・正論・写真報道担当)
   平田 篤州(産経新聞社総合企画室長)
   宮本 幸一(ニッポン放送専務取締役)
   中村 芳章(フジテレビジョン事業局長)
オブザーバー
   上田 博三(厚生労働省健康局長)
   木村 博承(厚生労働省健康局 生活習慣病対策室長)
   春日 雅人(国立国際医療研究センター研究所長)
   小林三世治(第一生命保険 支配人・健康増進室長)
リーダー・総合監修
   宮崎 滋(東京逓信病院副院長・内科部長)
医学分野
   片山 茂裕(埼玉医科大学病院院長・埼玉医科大学内科学 内分泌・糖尿病内科教授)
   横出 正之(京都大学医学部付属病院 探索医療臨床部 教授)
   和田 高士(東京慈恵会医科大学総合健診・予防医学センター教授・同附属病院新橋健診センター所長)
   柴 輝男(三井記念病院糖尿病代謝内科部長)
   中川 徹(日立製作所健康管理センタ放射線診断科主任医長)
医療・保健指導分野
   津下 一代(あいち健康の森健康科学総合センター副センター長兼健康開発部長)
   野口 緑(尼崎市環境市民局市民サービス室 健康支援推進担当課長)
運動指導分野
   宮地 元彦(国立健康・栄養研究所 健康増進プログラム運動ガイドライン プロジェクトリーダー)
   斉藤 満((社)日本ウオーキング協会事業部長)
   菅野 隆(日本健康運動研究所代表・健康創研代表・健康運動指導士)
食事指導分野
   鈴木志保子(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授)
   柴崎千絵里(東京女子医科大学病院栄養管理部)
   小野 真実(女子栄養大学栄養学部専任講師(食生態学研究室))
メタボリックシンドローム撲滅委員会
産経新聞社
フジテレビジョン
ニッポン放送
フジサンケイ ビジネスアイ
厚生労働省
学会
日本肥満学会日本動脈硬化学会日本高血圧学会日本糖尿病学会日本循環器学会日本腎臓学会日本心臓病学会日本内分泌学会日本血栓止血学会日本歯科医学会日本歯周病学会日本抗加齢医学会日本CT検診学会日本人間ドック学会日本総合健診医学会日本食物繊維学会日本プライマリ・ケア連合学会
社団・財団・協会
日本医師会日本臨床内科医会日本歯科医師会日本栄養士会日本薬剤師会健康・体力づくり事業財団日本糖尿病財団日本心臓財団日本看護協会日本フィットネス産業協会日本製薬工業協会日本OTC医薬品協会日本生活習慣病予防協会日本健康運動指導士会全国保健センター連合会全国保健師長会日本ウオーキング協会日本健康スポーツ連盟健康保険組合連合会健康日本21推進全国連絡協議会
協力団体
高尿酸血症・メタボリックシンドロームリサーチフォーラム
メディア
サンケイリビング新聞社扶桑社
協賛各社
第一生命保険相互会社 アステラス製薬株式会社 オムロン・ヘルスケア株式会社 グラクソ・スミスクライン株式会社
第一三共株式会社 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 日本酪農乳業協会
賛助企業
株式会社カーブスジャパン