食塩に弱い日本人 高血圧性の臓器障害も(1/2)
2009.08.08

 「減塩」は、高血圧の予防ばかりか、心肥大や腎臓病などを防ぎ、臓器の保護にも役立つことが分かってきた。最近の研究では、日本人は、食塩に敏感に反応する「食塩感受性」が白人と比べてはるかに高い民族ということが明らかになっている。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の人は、2倍の頻度で高血圧になるというデータがあり、30歳以上の大人の半分近い人が高血圧患者であることからも、新たな降圧治療戦略が求められている。高血圧・循環器病に詳しい愛媛大学大学院病態情報内科学の檜垣實男教授に聞いた。

---高血圧の患者さんは増えているのですか

 わが国の高血圧患者は、約4,000万人で、30歳以上の成人の5割近い比率になります。最近は、慢性腎臓病になる人が多く、最終的に人工透析になる前に、(脳卒中や心筋梗塞などの)循環器病に陥り亡くなるケースが増えて問題になっていますが、高血圧は慢性腎臓病の主要な原因であるとともに、この病気を悪化させる最大の危険因子でもあります。かつて高血圧患者は、辛いものばかり食べ、やせたイメージでしたけれど、今は、小太りで生活習慣病をいくつもかかえた病気のデパートという方が正しいのかもしれません。こういう病態の基本的な原因に、例えば、肥満、血圧を上昇させる「レニン・アンジオテンシン系」といわれる一連のホルモンの異常分泌、食塩の過剰摂取などがあるわけです。

---高血圧と食塩の関係は

 人類の進化の過程で、太古、海から陸に上がってくるとき、海水を体の中に、いわば血液と化して封じ込め、基本的に外から食塩を取らなくても脱水状態にならずに生きていける仕組みが備わった。血管の中には、海水の成分が生理食塩水として含まれ、流れているわけです。砂漠で脱水状態になったり、狩りや戦いで大出血したりすれば、血圧が下がります。その際に、レニン・アンジオテンシン系が働き、血液の中の水分を元の状態に戻し、下がっていた血圧が正常に戻るわけです。

 一方、出血したままでは血圧は元に戻らないので血小板や白血球を呼び込んで傷口も治し、出血を止めることもする。本来は、いいホルモンなのです。ところが、陸上の環境に適応し食塩をふんだんに取るような生活に変わってくると、ホルモンの作用で水分が増えすぎて高血圧が発症し、レニン・アンジオテンシン系は、むしろ邪魔物になってきたという説があるわけです。

---そのメカニズムとは

 血圧が下がると、腎臓からレニンという酵素が血中に放出されます。レニンが肝臓から分泌される特定のタンパク質を分解して、アンジオテンシンIという物質を作り、さらに別の酵素が働いてアンジオテンシンIIというホルモンができる。このホルモンは、血管を収縮させ血圧を上昇させる働きがある。さらにレニンは副腎にも働いて「アルドステロン」という体内に食塩と水をためるホルモンを合成します。そういった相互作用がバランスよく働けば、血圧が正常になるが、このアンジオテンシンIIが不適切に増加すると、血圧を上昇させる元凶となるばかりか、血管にも悪く働き、腎臓病や動脈硬化の元になります。

---どのくらいの食塩が妥当か

 尿中の食塩排泄量と収縮期血圧の関係を調べた有名な海外の「インターソルト研究」というのがあります。塩をたくさん取れば取るほど血圧は上昇する。一方、食塩を取らなければどんどん血圧は下がり、1日3gぐらいになると、急激に血圧は下がります。アラスカに住むイヌイットのようなまったく塩を取らない民族は非常に元気で高血圧が見当たらない。私ども日本高血圧学会では、「1日の食塩摂取量6g未満」と提唱しています。

---日本人は、食塩に敏感な民族だとか

 私どもが日本人の遺伝子解析を行ったデータでは、レニン・アンジオテンシン系の出発物質となるアンジオテンシノーゲンがたくさんできて食塩に敏感な遺伝子タイプの人と、そうでもない普通のタイプの人と2通りに分けられます。白人と比較研究したところ、アンジオテンシノーゲンについては、日本人の遺伝子はそのうち81%が前者のタイプに当てはまり、白人は45%でした。

 それにアンジオテンシン系と同じように体内に食塩をためるアルドステロンの合成酵素遺伝子も、日本人は白人より2割近く活性が高いタイプが多く、さらに腎臓で食塩を再吸収して体に食塩を取り込むタンパク質の遺伝子頻度も白人より2〜3倍以上高率という状況でした。その結果、日本人はそもそも体に食塩をためやすく、白人よりはるかに「食塩感受性」に富んでいることが分かったのです。従って日本人は、多少の食塩過剰でも敏感に反応して血圧が上昇する人が多いことになるわけです。




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