食塩に弱い日本人 高血圧性の臓器障害も(2/2)
2009.08.08

■新たな降圧治療に期待

---しかし、なかなか減塩ははかどらない

 人間というのは、とにかく食塩を取って脱水にならないようにしたいというのが本能ですから、食塩を減らすのはなかなか難しい。さきほどの6gの食塩は、スプーン小さじ1杯程度。日本人の国民食といってもいいラーメンは4g、てんぷらそばは6gになります。薄味にするつもりで湯を入れても、摂取する食塩の量は同じです。戦後、秋田県では1日25グラムの食塩を取っていました。最近では、全国的にだんだん減って、摂取量は男女合わせて11g、男性12.2g、女性10.5gということですが、女性の方が食事量が少ないからで、塩が好きという意味では男女差はありません。

 年代別では、団塊の世代、50〜60代が一番多く取っていますが、戦後の貧しい時期の食事の好みをひきずっているようです。ちなみに高血圧の発症率の伸びが一番高いのもこの世代です。

---食塩そのものも、体に害を及ぼす

 実は、食塩と病気の関係というのは、高血圧だけではありません。世界の疫学調査では、食塩摂取量が多いほど胃がんの発生率が多いことが明らかになっており、食塩自体、体を損なう作用を持っているらしい。さらにさまざまな研究結果によると、食塩というのは、「血管毒」として高血圧の臓器障害を起こすことが分かってきています。そのメカニズムは、現段階の研究では、食塩が一種の活性酸素、酸化ストレスとして働いていると考えられています。ですから、食塩に注意するのは、高血圧の予防のためだけでなく、食塩そのものも体内から減らしていくことが大事です。実際、海外の疫学調査で、食塩の摂取量に応じて臓器障害の程度を調べたところ、食塩をたくさん取っているグループは、血圧には関係なしに、心肥大や慢性腎臓病を起こしやすいことが明らかになっています。

 逆に、食塩摂取の生活習慣に16年間介入した米国のTOHP試験では、減塩食のグループは、普通食を取ったグループと比べ、心血管病の発症や総死亡が激減していた。日本人に関しては、国立循環器病センターの18年間の研究で、食塩の非感受性の人に比べ、体に食塩をためやすいタイプの人は、年を経るごとに急激に心血管病になる確率が高くなり、非常に予後が悪いことが分かっています。

---そのほか、食塩感受性に関係する病気とは

 いろいろ薬を投与してもなかなか血圧が下がらない、いわゆる難治性高血圧で、まだ利尿薬を使っていない人に少し利尿薬を加えてあげると、驚くほど下がります。それから、腎臓が傷んで慢性腎臓病の人、従来の心不全と違って拡張期の広がりが悪くて起こる心不全、さらに、糖尿病やメタボの人たちです。滋賀大学のデータでは、メタボの患者さんの食塩感受性高血圧の頻度は、メタボでない人に比べて2倍も高いことが分かっています。前述のアルドステロンが過剰に分泌して起こる原発性アルドステロン症も、本態性高血圧の15%に潜んでいるといわれています。

---治療法としては

 心筋梗塞や脳卒中、心不全などの高血圧性の臓器障害を守るための3原則が確立してきました。1つは厳重な降圧、2つ目がレニン・アンジオテンシン系の抑制、3つ目が減塩です。この3原則をすべて満たすような薬は何かというと、現時点では、血圧を下げるアンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)と、少量の利尿薬の配合剤ということになります。メーカー各社とも合剤の開発には力を入れてきたわけですが、別に併用して飲むよりは、1錠の合剤の方が服薬が長続きしやすいというのが世界の常識になっています。海外の患者さんのアドヒアランス(服薬継続)調査でも、その方が降圧目標の達成率が良いのです。

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【用語解説】原発性アルドステロン症

 高血圧を主症状として、四肢の脱力感、まひなどの要因となる低カリウム血症、多尿、のどの渇きを起こす。アルドステロンを分泌する腫瘍を手術で取り除いたり、アルドステロンの作用を抑える薬で治療する。

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【Profile】檜垣實男

 ひがき・じつお 愛媛県出身。大阪大学医学部卒業。米オハイオ州クリーブランドクリニック研究員、愛媛大学医学部内科学第二講座教授を経て、平成18年、同大学院病態情報内科学教授・付属病院副院長。研究分野は、循環器病の分子成因の解明と新治療の開発。日本高血圧学会理事、日本循環器学会評議員など多数。

(産経新聞 2009/08/08)


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