「生活習慣病対策に手遅れはない」ー。千葉県では、市民と医療者ら有志がNPO法人を立ち上げ、糖尿病や動脈硬化などのメタボリックシンドローム対策としてあらゆる世代を巻き込んだ啓発活動に乗り出している。成人のメタボとの関連が指摘される「小児肥満」に対しては、学校・地域ぐるみで総合的に取り組み、館山市などでは特に成果を上げている。一方、千葉県医師会(藤森宗徳会長)では、生活習慣病やがんに対して、医療者と患者をつなぐ全県共用型の「地域医療連携パス」を開発し、お互い“顔の見える連携”を目指している。ユニークな活動を続ける健康・千葉の取り組みを紹介する。
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市民と医療者が交流
「今から30年ほど前です。千葉大学病院に勤務していたころ、館山市で肥満の子供たちが増えているという相談がありました。肥満児というと嫌がる子供もいたので『過脂肪児』と名前をつけて、昭和55年から安房医師会病院で『過脂肪児外来』をオープンしたのです」と、千葉県医師会理事で西船内科院長の篠宮正樹氏は振り返る。
篠宮氏は、その後、平成13年に船橋市内で内科医院を開業したが、子供たちの肥満傾向は収まるどころか、同市周辺でも20〜30歳代から肥満・糖尿病を持つ人が目立ってきたのである。さまざまな調査の結果、篠宮氏は、「今の子供たちは運動不足のうえ、塾に行く前にカロリーの高い間食を食べたり、成人してからも脂肪分の多い食事を取ったりして生活習慣病が増えているのではないか」と考えざるを得なかったという。
こうした危機感から、篠宮氏は、予防対策に取り組み始め、17年に千葉県医師会の金塚東医師・栗林伸一医師ら有志と語らい、NPO法人生活習慣病防止に取り組む市民と医療者の会(愛称「小象の会」)を立ち上げた。篠宮氏は、「生活習慣病の発症や進行を防ぐには個人だけでは困難で、医療者も広く市民と交流して、地域ぐるみでお互いのサポーターとなりながら活動していく必要があります。そのためにコアとなるNPOが必要だったのです」と話す。
『小象の会』の名称は、子供たちが本来あるべき生活スタイルをとり戻して健康に成長することを願い、さらにその活動が社会に広く受け入れられて大きな象のように成長することも意図している。
NPOには、医療者ばかりでなく、保健行政、民間からが半分近くを占めるなど参加者が増え、全県ぐるみの活動となった。県内各地で市民講演会・フォーラムを開催した回数は、20回を超える。篠宮氏自ら小学校などの教壇に30回以上立ち、子供たちに、体の仕組みの素晴らしさ、生まれてきたことの不思議さを説いて、生活習慣病予防の大切さを訴えてきた。
「現代の子供たちは、自己肯定感が低い。自分をかけがえのないものと思えなければ、自分を大切にしようとは思わない」(篠宮氏)からだ。
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楽しくカロリー計算 館山市 地域ぐるみ予防健診
館山市では、平成13年から、行政や学校、教育委員会が協力して過脂肪児外来を「小児生活習慣病予防健診」に発展させ、小児に対する予防活動と合わせて実態調査に乗り出している。
さらに、各小中学校でも保健師や管理栄養士らを講師に、カロリー摂取の授業などもスタートさせた。授業は、「間食はどのくらいのカロリーか」「おやつも食事の一部」などと、買い物ゲームも取り入れているユニークなもの。子供たちも楽しみつつカロリー計算などが身に付くやり方で、家に帰って親に教える子供もいたという。親たちに対してもPTA活動や各地区の公民館で栄養士らが「食育」の“出前講座”を行った。
篠宮氏は、「子供たちが運動不足で高カロリーのものを好む背景には、大人たちが作り出した便利で横着ができる経済優先の世の中がある。テレビやゲームの多い子供の親たちも、テレビを見る時間が長かったり、肥満の子が多い地区には、清涼飲料水の自販機が多かったりする。親子のコミュニケーションや、地域ぐるみのよさが失われてきて、子供たちの生活習慣や人間形成に悪い影響を及ぼしているのではないか」と指摘する。
予防活動を始めて5年後ー。館山市では、当初の13年度に行われた小中校生に対する生活実態調査と、18年度との比較を行った。その結果はどうだったか。
まず、小中校生を通じて、「朝食欠食」については、朝食を食べる生徒の割合が81%から90%近く増えた▽睡眠時間は、午前0時以降に寝る生徒が、11%から約7%に減った。中でも、表のように、中学2年生に絞った調査では▽小児肥満の基準値を超えた生徒の割合が男子では約15%から約8%、女子は12%から8%といずれも減少▽血液中の中性脂肪高値の者の頻度が男子は、約8%から1%に減少、女子は、基準値を超える者がいなくなったーなどの好結果が出た。
館山市健康課では、「健診をやること自体の効果があったのでしょう。生活習慣病の問題は、子供のうちから考えなければならず、長期的な展望が大事なのでは」と答えている。
20年に千葉県が行った鎌ケ谷市、流山市など県内5市約2200人の小学5年生でのアンケートからも、「早寝・早起き・朝ご飯」が達成できている児童ほど、(1)肥満度が少ない、(2)野菜の摂取量が多くファストフードが少ないうえに間食が少ない、(3)朝すっきり目覚める、自分には良いところがあると思える(自己肯定感)ーなど、好ましい結果であった。その反対に達成の該当数が少ないほど逆の傾向が強まり、(1)朝食時間が短い、(2)食事時や起床・就寝時のあいさつができていないーなどに加え、保護者の対応も、食事に主食・主菜・副菜をそろえなかったり、規則正しくないーなど関連性も浮き彫りになった。
東京に近い市川市医師会の調査でも、小中学生の肥満児が増加していた。17年度の中学1年生健診では、中学生の腹囲身長比(腹囲÷身長、0.5以上は要注意)が大きい子供ほどLDLコレステロールや血圧が高く、子供の内臓脂肪蓄積を示唆する腹囲80センチ以上の中学生も現れている。
館山市や市川市では、引き続き小中学生らには、サマーキャンプや運動習慣や低脂肪食を学ぶ体験入院の機会を増やしていく方針だ。
篠宮氏は、厚生労働省の研究事業「幼児期・思春期(高校生)における生活習慣病」研究にも携わり、自身は、千葉県内の3高校を実態調査した。
その結果、男子の10%が内臓肥満で、すでに血圧や血糖が高め▽女子は、むしろやせの傾向がうかがえるーと全国の高校生とほぼ同じ。しかし興味深いのは、同じ学校で1年半の間隔で同じ生徒を健診したところ、規則的な生活に戻ったことなどから、みなデータが良くなり、さらに運動部に入部した生徒は、格段によく、篠宮氏は、「高校生は大人への過渡期だが、すでに肥満やメタボの傾向は大人と大差ない。この年齢から健診や実態調査をする必要があります。運動の効果も訴えていきたい」と話している。
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医療パス…「顔の見える連携」
成人の糖尿病をはじめとする生活習慣病対策も、千葉県はユニークな試みを続けている。その目玉のひとつが「全県共用型の地域医療連携パス」だ。病院医師から、かかりつけ医(診療所医師)、あるいはかかりつけ医から病院へと、患者さんが移る際に情報がたちどころにわかり、お互い“顔の見える連携”を目指しているということだ。
千葉県内にも糖尿病を疑われる者がおよそ100万人いると考えられる。ところが、糖尿病の専門医は県内で約120人にすぎない。そのうち4分の3は病院外来で患者を診ており、一人の医師が何百人も抱えてパンク状態だ。そこで安定期の患者は、かかりつけ医で見てもらうためのツールとして全国的に「地域医療連携パス」という診療データ表が使われ始めている。千葉県の場合は、それが徹底していて全県共通のフォーマットなので、病院とかかりつけ医との連携さえうまくいけば、実に便利なシステムだ。千葉県内の病院や開業医ら同士も“顔の見える連携”を目指して定期的に会合を重ねている。
千葉県では、4月からこの全県共通型医療連携パスを使い、糖尿病・がん・脳卒中・急性心筋梗塞の4疾患について運用を始めている。
フォーマットは、簡単な見開きページの「診療計画表」と「診療経過表」の2部で成り立っているが、医師が書き込んだものを、必要に応じて患者が持ち歩く。
「気をつけてほしいポイントが書いてあり、ふだんは、かかりつけ医のカルテに保存しておきます。患者さんとしても、かかりつけ医を持ちつつ必要なときは病院にかかれるという安心感を持てます。将来は生活習慣病全体のパスになっていければと考えています」と篠宮氏。患者にも手に取るように分かるシステムで、情報開示にもつながるとしている。
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【Profile】篠宮正樹
しのみや・まさき 千葉大医学部卒業後、同大第2内科入局。齋藤康・現千葉大学長に師事。済生会船橋済生病院院長を経て平成13年、西船内科院長。千葉県医師会理事、NPO小象の会副理事長。臨床栄養学会社会活動賞受賞。


























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